春の日の記憶

「ときめく心も、君へのドキドキも、全部準備できました。」

ムンビンへ

 

 

ゆっくりと、アストロが好きでたまらなかった、高校生のあの頃を思い出す。

帰り道に流していたRunも、受験の時に聞いて泣いたワンミリも、何度も何度も見たBabyも全部、大好きだったKnockも。

本当に大好きだった記憶ばかり蘇ってきて、私にとってアストロは、事務所に対して抱えた不満も多かったけれど、思い返してみると、そんなことも小さな埃程度だったような、大きな幸せで、大きな大きな、言葉にできないような、大好きな、そんな存在だったのだと思う。

 

数日たって、普通に暮らしている。暮らそうと努力をしている。

でもふと、本当にふとした瞬間に、心が真っ暗になってしまう。電車を待っている時、信号待ちをしている時、洗濯ものを干している時、ムンビンは本当に幸せだったのだろうか考えてしまう。

 

まだ、実感がわいていないのだと思う。整理もついていない。

あの時みたいに、器に山盛りのご飯をよそって、元気ですよって顔を出してくれるのではないかと思ってしまう。いつもみたいにニコニコ笑って、穏やかに。

 

わからないけど、わからないままに文章を書いているから、読み返してもわからないと思うけど、一人だとどうしても押しつぶされる。

むんびんが幸せだったのか、今幸せなのか、置いていくなんてずるいと思う自分が愚かで情けなく、申し訳なく、どんな言葉を選んでも彼を否定してしまうような気がして、SNSには書き込めなかった。

 

ムンビンが最後に残したタンポポの綿毛を、私がこれから、ムンビンのいない世界で生きていくにはあまりにも身近すぎるものだった。

春が来たら、たんぽぽの綿毛が道端に咲いていたら、ムンビンのような穏やかな風が吹いたら、夜空に綺麗な月が、星が輝いていたら、私はきっとムンビンを思い出してしまって、悲しくなって恋しくなるのに。

 

そうやって頑張って日常を過ごしているうちに、気持ちが整理されて、落ち着いて、大人になって、ムンビンを忘れてしまうことが一番怖い。

忘れたくない、恋しがりたくなんてない、ただ大人になるこの先の人生に、どんな立場であっても、どんな関係性であっても、ムンビンがいてほしかった。

望むものは、ただそれだけだった。