春の日の記憶

「ときめく心も、君へのドキドキも、全部準備できました。」

届かなくていいファンレター

 

 

テレビをつけたら、昔あんなにも大好きだった彼らが、「デビューした人たち」として映っていた。

もう何年経っただろうとふと考えてちょっと怖くなった。もう6年にもなる。私はその間にたくさん変わった、彼らもたくさん変わったのだ。彼らは今日も変わらずテレビの中で笑っているけれど、だけどどうしても、月日が過ぎても大好きだった彼らに過去を求めてしまう。ひどい人間だ。

 

ねえ、6年も経ったから、いいかな。少しだけ昔話をしておきたい。届かない、届かないほうがいいファンレターを、ここに残しておきたい。彼らを見るたびに少しずつ沸騰するようなこの気持ちを。

いつか見返した時にまた、切なくなるのかもしれないけど。

 

 

私にとって人生で初めて好きになったアイドル。彼は突然現れて、突然ステージで輝きはじめた。下積みとして先輩たちのバックとして踊る子たちが多い中で、彼は最初からマイクを持ってあろうことか歴の長い子たちと歌って踊っていた。

姉の影響で見ていた彼らに虜になるのは本当に簡単なことで、あっという間だった。あれよあれよと恋に落ちた。ほぼ恋に近いような、憧れだった。

 

歴の長いシンメだった二人に囲まれて、可愛がられる、彼が好きだった。いつもふにゃふにゃと笑ってすごい天然で、意味のわからない発言でみんなを驚かせて、「え~?」と笑うきみがすごい好きだった。ステージに立つときりっとするその表情も、なめらかで流れるようなダンスも、ハスキーな歌声もすごいすごい、ただ純粋に好きだった。

 

どこが好き?と言われて全部!と言われるくらい好きだった。本当にただ彼を応援することしか考えていなくて、幸せで楽しくて。いわゆる盲目、彼がなにをしても好きで全部すきで。

 

長い間同じく活動した先輩がデビューして、たくさん泣いた彼らを見て、これからも彼らを応援したいと心から思ったし、彼らならきっとデビューできると思った。アイドルに「終わり」があることを知らなかった私は、その時きっと知らずに彼らに「永遠」を求めたのだ。彼らと年を重ねる私を、きっと当たり前かのように頭に思い浮かべていた。

 

それから時間は必要なかった。「次に泣くのはデビューするとき!」と泣いた彼らが少しずつ、まるで海辺に作った砂の城が時間が経つにつれて崩れるように、翌朝になったら波にのまれて消えているように、なくなった。ばらばらになった。

アイドルであることを自らやめた彼が、もういないと考えるだけで私はどうしていいかわからなかった。私は3人の彼らが好きで、2人でいるなんて見ていられなくて、こんな感情を抱く自分も本当に嫌で。

そうやって目を背けているうちに、いちばん好きだった彼もいなくなってしまった。残されたメンバーが一生懸命に活動する姿を見ることもできず、私はファンをやめることにした。やめる、と決意したら楽になれると思ったから。実際とても楽だった。

東京で活動する彼らを一切見ないようにした。情報は遮断しようと思えばできるし、そうやってコントロールした。まもまく他にプロスポーツにハマり、私はそうやってやめた。逃げたのだと思う。私が「彼」を好きだったのなら、きっとやめなかっただろう。だけど私は「彼ら」が好きだった。

 

 

まもなくして、デビューすると聞いた。時間が経って思い出さなくなったのに、それを聞いた瞬間にあの時の感情が全部あふれ出て泣いた。もう、私の好きだったあの6人がデビューするという未来は完全に消えた。ファンがわずかに持っていた願いも。そうやって「昔のファン」は排除された、一部の人にはまるで悪者みたいな扱いもされていたのも見た。

彼らは昔の多くのファンが望んだ未来を選ばなかった。あまりにむごくて、でもそれは人生の選択としてあたりまえだったのかもしれない。きっと私のように離れたファンは少なくないし、こんなぐちゃぐちゃの感情を抱いている人もいるはずだ。

 

彼を見るたびに、あの時のような感情は全くわいてこなくなった。まるで他人を見ているようで、この人は本当に、彼だろうか?と思うようになった。しばらくして、私は「ああ、この人はもうあの時の彼ではない」と今を受け入れて、そうやって流れた。全部自分で流したのだ、本当は、心の底では、すがりたいほど望んでいたのに。あの6人でデビューすること。

 

たくさんテレビに出るきみが、別人だと思うようになってからもう何年も経ったんだね、あの時熱心にきみを追いかけていた少女は、色んな感情を育てた大人になり、もう彼らを見てもなにも覚えなくなったよ。

こんなふうに未練たらたらで笑えるでしょ、でも幸せになってほしいと思ってるよ。きみが選んだその道で幸せにならないなんてありえないよ。たくさんのファンを振り切ってその道を歩んだきみが、いつまでもマイクを握れるといいと思う。

でも忘れないでいてほしいと、そうやってエゴを置いておく。彼にとって忘れられない日々であればいいのに、と呪いのようなエゴを。

本当にひどい人間でごめんね、でもそれくらい好きだった。一生忘れない。

私もたくさんの素敵なアイドルに出会った、その人たちの作る音楽が私の人生を一生彩ってほしいと思うアイドルたちに。そこにきみがいないのがとても悲しいけれど、きみがいないから、その人たちに出会えたんだ。むごいようだけど。

 

でも、ありがとうって言うね。ファンレターだから。私の人生に現れてくれてありがとう。

こうやってまたしばらく、長い時間が経てばふと思い立ってつらつらと未練がましい言葉を残すんだろうけど、「さようなら」がなかった私たちは、自分たちで終わりを実感させられることがなかった私たちは、今も6年前のきみたちに大好きだよと、声をかけてしまうしかないんだ。さようならがあれば、終わりの言葉があればどれだけ楽だっただろうに。今のきみたちを大好きでいることができなくてごめんなさい。

 

幸せになって。

そしてどうか、ずっとステージにいてください。

私の青春を作ってくれてありがとう